病院総合診療専門医とは

 21世紀を迎えて久しく専門分化が進む医療分野において医療の質が重視される現在、病院における総合診療分野の役割も臓器専門分野と同様に重視されてきています。病院総合診療医は、様々な規模で急性期から慢性期までの病院医療チームにおいてリーダーシップ、マネジメントスキルを発揮し、患者および患者家族の人生における病院ケアでの健康管理を最大化することのできる医師です。そのために病院総合診療医には、あらゆる症候・疾患に対する最新の医学知識に基づいた思考力と行動力、そして総合診療医ならではのコミュニケーション能力や組織管理力、さらに最近は地域包括ケアの概念に代表される地域と密接に関わる医療を展開する総合力が求められるようになって参りました。次世代の総合診療医の育成には、これらの要素を実際に現場で適応できる研修システムと、それを十分に実現できる環境が必要となります。

 本制度で認定される病院総合診療医は、総合診療医学、全人医療についての深い理解を基盤に急性期から慢性期までの病院における様々なケアを患者に提供し、多職種からなる医療チームにおけるリーダー的存在となるとともに、そのチームを育成し、臨床・教育・研究の面で業界をリードできる能力を保持することが求められます。国内で初めて病院総合診療医学の学問体系を示したテキストブックである「病院総合診療医学」(日本病院総合診療医学会)には、病院総合診療医の役割として以下の10項目が策定されています:1.どのような疾患、どのような病態の患者でも診察する、2.救急医療も行う、3.未診断患者に対する速やかな診断、4.チーム医療の要となり、コンダクターとなり専門医およびコメディカルの力を発揮させる、5.若い医師、コメディカルの教育、6.家庭医と連携を取り支援し、専門医とも連携を取り専門的治療も実施、7.高齢者など複数の疾患を併存している患者の診療、8.臨床研究や疫学的研究を通じて医学の発展への寄与、9.予防医学を実践し、健康な⻑寿社会造りを目指す、10.地域包括ケアの要となり、地域の総合診療医療を向上させる

 これを元に、本制度で求められる病院総合診療専門医の具体的な医師像を以下に提案します:

  1. どのような疾患・病態の患者でも断らず、全人的医療を実践するマインドを持ち診療できる
  2. 地域包括ケアの要としてコミュニティとつながり、患者やその家族の生涯やそれをとりまく地域を見据えた病院診療を実現することができる
  3. 病歴、身体診察、基本手技全般、検査の解釈に⻑け、病院の外来、救急、病棟、集中治療室において標準知識に基づき診断・治療・予防・患者説明の実践と教育を遂行できる
  4. 診断困難な症例では戦略的思考を駆使して最適解を追求し、マネジメント困難例では院内の各専門科、各医療職と緊密に連携して弾力性の高い医療を提供できる
  5. 医療チームにおけるリーダーシップに⻑け、その能力を適切に発揮できる
  6. 様々な部門や階層での組織マネジメント技術に⻑け、院内診療の最適化に貢献できる
  7. 医療の限界と医療資源の有限性を理解した医療の質を重視する診療を実践し、それに準じた組織運営を行うことができる
  8. 保険診療を理解した医療経営の視点を持ち、所属組織における最適なチーム運営を実践できる
  9. 次世代の病院総合診療医を育成する心に溢れ、俯瞰的な視野で卒前・卒後教育を指導できる
  10. アカデミックジェネラリストの視点で、臨床研究を通じ日本・世界の病院総合診療分野の発展に寄与できる
 本制度が単に資格の指標のみならず、病院総合診療を通じて日本の地域医療の安定と発展に貢献する若手医師の最良の指針となることはもちろん、時勢に応じ改良も経ながら、日本の病院総合診療専門医の質を常に世界に発信していく基盤となることを心より願います。