日本病院総合診療医学会 学会主導研究

希少疾患研究による社会貢献について

日本病院総合診療医学会では、病院総合診療の質の向上と国民の健康増進に貢献するため、学会主導の臨床研究を積極的に推進しています。特に診断が困難な希少疾患の早期発見・診断戦略の構築を通して社会に貢献することを目指しています。

現在、当学会では「急性腹症診療ガイドライン」を基盤とした希少疾患研究の一環として、「急性肝性ポルフィリン症(AHP)」および、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」の診断戦略構築に関する全国規模の研究を実施しています。

急性腹症診療ガイドラインについて

当学会が作成に関わる「急性腹症診療ガイドライン」は、腹痛を主訴に救急外来を受診する患者さんの適切な診療に役立てるために作成されたガイドラインです。第1版(2015年)に続き、第2版(2025年)では最新のエビデンスを取り入れ、より詳細な診断・治療指針を提供しています。

このガイドラインでは、約30%の急性腹痛患者が「非特異的腹痛(NSAP)」と診断されることが示されており、その中には診断が難しい希少疾患が含まれている可能性があります。特に、急性肝性ポルフィリン症(AHP)、遺伝性血管性浮腫(HAE)などの希少疾患は症状が多彩で非特異的なため、診断に苦慮することが多いとされています。


当学会が主導で行う研究2つについて簡単にご説明します。
  • 急性肝性ポルフィリン症の初期スクリーニング検査としてのHoesch試薬の有用性評価(Japanese society of hospital general medicine, Assessment of the utility of Hoesch test assay as initial screening test for acute hepatic porphyria in Japan:JAPAN study)についてはこちら。
  • 総合診療科を受診した患者におけるHAEの有病率および臨床的特徴の調査(Exploring the clinical practice and prevalence of HAE in patients visiting hospital general medicine departments in Japan:EXPLORE-HAE study)についてはこちら。
学会主導研究 JAPAN studyについて

当学会では、「急性肝性ポルフィリン症(AHP)」の早期診断を推進するため、全国規模の学会主導研究「JAPAN study」を実施しています。

希少疾患「急性肝性ポルフィリン症(AHP)」とは
急性肝性ポルフィリン症(AHP)は、ヘム合成に必要な酵素の欠損によって引き起こされる遺伝性の希少疾患です。10万人に1人という発症率ながら、その症状の非特異性から診断が難しく、発症から診断までに平均15年かかると報告されています。

AHPの主な症状

  • 腹痛:AHP患者の約9割に見られ、急性腹症と誤診されることがあります。
  • 嘔気・嘔吐、便秘などの消化器症状
  • 四肢痛、背部痛、筋肉痛などの疼痛
  • 不安、うつなどの精神症状
  • 赤褐色の尿(ポートワイン尿)
  • 重症例では四肢麻痺や呼吸停止も発生することがあります。


AHPは早期診断・適切な治療により、患者さんの生活の質が大きく改善する可能性があります。しかし、症状が多彩で非特異的なため、過敏性腸症候群(IBS)、虫垂炎、婦人科疾患などと誤診されやすいことが知られています。

研究の正式名称(略称)
Japanese Society of Hospital General Medicine, Assessing the relationship between urine Hoesch reaction and Porphobilinogen for diagnosing Acute hepatic porphyria in patients with NSAP(JAPAN study)

研究目的と背景
  • 「非特異的腹痛(NSAP)」と診断された患者の一部には、未診断のAHPが含まれている可能性があります。
  • AHPの診断には尿中ポルホビリノーゲン(PBG)検査が有用ですが、通常の検査では結果判明まで約10日かかります。
  • この研究では、迅速診断のためのヘッシュ試薬による尿検査の有用性を評価します。
研究の特徴
  • 全国の病院総合診療医学会会員が所属する医療機関で実施している。
  • 65歳未満の原因不明の腹痛患者さんを対象とする。
  • AHPを疑う症状(消化器症状、神経症状、精神症状など)がある患者さんに対し、尿検査を実施する。
  • AHPの早期発見に貢献する。

関連リンク

参考情報

研究に関するお問い合わせ

JAPAN study研究事務局
メール:japan_study@n-place.co.jp

※本研究はAlnylam Japan株式会社の研究助成を受けて実施しています。

学会主導研究 EXPLORE-HAE study

当学会では、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」の早期診断を推進するため、全国規模の学会主導研究「EXPLORE-HAE study」を実施しています。

希少疾患「遺伝性血管性浮腫(HAE)」とは

遺伝性血管性浮腫(HAE)は、C1インヒビターの欠損または機能異常により、血管透過性が亢進し、皮膚や粘膜、消化管、気道などに浮腫を引き起こす希少疾患です。発症頻度は5万人に1人程度とされ、診断の遅れが重篤な転帰を招くこともあります。

HAEの主な症状
  • 腹痛(消化管浮腫):HAE患者の約8割に見られ、急性腹症と誤診されることがあります。
  • 顔面、四肢、外陰部などの局所の腫脹
  • 喉頭浮腫:窒息のリスクがあり、緊急対応が必要です。
  • 発熱や蕁麻疹を伴わない非炎症性の浮腫


HAEは、過敏性腸症候群や虫垂炎、アレルギー性浮腫などと誤診されやすく、診断までに平均で7〜10年を要することもあります。
研究の正式名称(略称)

Exploring the clinical practice and prevalence of HAE in patients visiting hospital general medicine departments in Japan(EXPLORE-HAE study)

研究目的と背景
  • 総合診療科を受診する患者の中に、未診断のHAE患者が含まれている可能性があります。
  • HAEの診断には知識と検査が必要であり、一般診療の現場では見逃されやすい疾患です。
  • 本研究では、全国の総合診療科におけるHAEの有病率と臨床的特徴を明らかにし、早期診断体制の構築を目指します。


研究の特徴
  • 全国の医療機関で実施している。
  • 原因不明の腹痛や浮腫症状を呈する患者(年齢制限なし)を対象としている。
  • HAEを疑う症例に対して行われたC1 インヒビター活性を含む検査結果を収集する。
  • HAEの早期発見と診療体制の整備に貢献する。
関連リンク・参考情報
研究に関するお問い合わせ

EXPLORE-HAE study研究事務局
メール:explore_hae@jshgm.jp

※本研究は、CSLベーリング株式会社の研究助成を受けて実施しています。